夢洲から
大阪・関西万博の西ゲートを入ると、正面右手の一角で数人がかがみ込んでいた。耐水やすりを使って、大きな石を一心不乱に磨いている。
聞けば、ハート形の石を磨くことで、人類の願いである「愛」と「平和」を表現するイベントなのだという。
会期中に14回開く予定で、この日が初回。磨かれた石を触るとすべすべで、気持ちいい。でも、主宰した彫刻家の冨長敦也さん(63)は、まだまだ「こんなもんじゃない」と言う。
耐水やすりは数字が大きいほど粒が細かくなるが、この日、世界各国から来た約250人が使っていたのは「80番」。回を追うごとに数字を上げ、閉幕の10月にはレンズを磨くために使われる「6千番」にする。石は「空とか顔が映る」ほど、ぴかぴかになるのだそうだ。
万博会場では、様々な映像技術を楽しむことができる。でも、秋には電気もAI(人工知能)も使わないこの石の表面にも、鮮やかに空や人々の顔が映し出されるだろう。
「石は、我々がいなくなっても存在し続ける。記憶媒体として、これ以上のものはない」。冨長さんの言葉に、未来を考えるきっかけは自然の営みの中にもあることに、改めて気づかされた。
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世界中の人々が集まり、連日多彩なイベントが開かれる大阪・関西万博。会場の夢洲(ゆめしま)で取材に駆け回る記者たちが、日々のできごとや感じた悲喜こもごもを伝えます。